改憲を防ぎたいのなら、護憲派は「真実を教える」モデルから脱却すべき

 

 

 

 

7/10の参議院選挙で、自民党(与党)が議席の2/3の取ること、そしてそこから憲法改正へとつなげることを阻止すべく、憲法改正反対派=「護憲派」の人たちが、積極的なキャンペーンを繰り広げています。「反アベ」をスローガンに活動を行っていますが、現在の状態では、目標達成は困難であると言わざるを得ません。

その原因は「メディアが自民党寄りだから」でもなく、「投票率が低いから」でもありません。護憲派・野党の選挙戦略が、杜撰だからだと考えています。

まず、目標の難しさについて整理しましよう。 
参議院の全議席数は242。野党が目標とする「与党の議席率2/3(=162議席以上)阻止」を実現するには、参議院全体で81議席以上を占める必要があります。今回の選挙では、参議院議席数242のうち121議席を争います。非改選(今回の選挙では選ばない議席)の121議席のうち、野党は32議席。そのためには今回の選挙での野党の獲得議席数を49議席(獲得議席率41%)以上にしなければなりません。

前回(2013年)の選挙では、投票率が53%。投票のうち与党の得票率は68%、野党が32%でした*1
前回と同様の投票率・得票率であると仮定すると*2、「議席2/3阻止」という目的は果たせません。つまり、前回よりも多くの得票数を獲得する必要があります。
そのためには①与党支持者を野党支持に鞍替えさせる②前回投票していない(おそらく今回も投票しない)人たちに野党に投票させる、という策しかありません。①は難易度が高いため、②を実現することが現実的であると思います。前回と同様の投票率・得票率であると仮定すると、今回の選挙では【投票してない人:与党に投票した人:野党に投票した人】の比率は【47%:36%:17%】。これを【23%:36%:41%】にする必要があります。投票していない人のうち半数近くを野党に投票させるわけで、これはかなり難しいです。

このような難しいミッションを達成しなくてはならないのに、護憲派の人たちの選挙キャンペーンは、効果が低いと思います。それが特に現れているのがTwitter上の振る舞いです。
上の3つは護憲派の人たちのTweetの典型例です(RTが1000以上のTweetから抜粋)。
一番上のTweetは「大手メディアはいつもの選挙だと言っているけど、実はとても重要な選挙ですよ」と言っています。
次のTweetは「投票する際に、候補者の考えと自分の考えと完全に一致しているかどうかで判断して棄権しているかもしれないけど、実はそんな候補者はいないので、投票すべき」と言っています。
最後のTweetは「あなたは知らないかもしれないけど、実は自民党員はこんな発言をしています。だから投票すべきではない」と言っています。
このように、彼らのTweetは「(知らない人に)真実を教える」というタイプのコミュニケーションが多いのです。与党支持者の切り崩しや無党派層の取り込みのために、このTweetをしているということは、彼らは「無党派層の人たちも、選挙や自民党憲法について正しい知識をもっていれば、自然に【護憲・反自民】の立場に立つだろう(そして野党に投票するだろう)」と前提のもとに行動していると考えられます。

しかし、この前提が正しいのでしょうか?自民党を支持する人たち、投票に行かない人たちは、正しい知識が欠如しているからでしょうか?僕はそうは思いません。

経済状況が本当に苦しく、「ここで政権担当能力が低い野党に政権を任せ、更に景気が落ち込んだら会社が倒産するかもしれない」という恐れを抱く中小企業の社長が自民党に投票しているかもしれません。
政治信条的に自民党には投票できない、しかし野党の掲げる経済政策などに具体性が乏しく、こちらも投票する気にはなれない。悩んだ挙句投票しないという選択肢をとるかもしれません。

護憲派の人たちは、こういった人たちが存在することをまったく考慮していないように見えます。あらゆる情報を調べ、それをもとに思考して、その結果与党に投票する人。あるいは投票しない人。与党の議席率2/3以上阻止を目的とするのであれば、彼らのような人たちの投票行動を変える必要があるでしょう。しかし、彼らは護憲派がいくら「真実」を伝えても投票行動を変えないでしょう。
私はリベラルな思想の持ち主です。安倍政権の憲法軽視の姿勢には断固として反対です。しかし、雇っている従業員10人(とその家族)に対する責任を果たすために、自民党に投票する社長を「無知だ」「愚かだ」と批判することはできません。そういった個人的な考えを抑圧して、護憲のためだけに野党に投票することを迫る行為は、護憲派が批判する全体主義的なものに他なりません。そして、上記のような思考過程を経て野党に投票しなかった人たちを罵るような態度は、立憲主義を「金持ち・インテリの空虚空論」に見せてしまいます。それこそが立憲主義にとって最悪の結末と言えるでしょう。

護憲派に必要なものは、ビジョンです。護憲派を支持し、野党に投票することで、なぜ未来が明るくなるか、その道筋をはっきり示すべきです。
民進党選挙公報を見て愕然としました。候補者は「安倍政権で経済が悪くなった」と伝えるだけ。比例代表の広告では「国民(あなた)と進む」という薄っぺらなメッセージを言うだけ。自民党が、候補者は具体的な政策ビジョンを、比例代表の広告ではこれまでの実績を記載しているのとは大違いでした。本当に勝つ気があるのか、疑わしくなります。
護憲派・リベラルは、「なぜ自分たちは議席を伸ばせないのか」「なぜ自分たちのキャンペーンは無党派層に届かないのか」「なぜ自民党憲法を軽視するような言動を繰り返しながら、それでも支持を広げているのか」といったことに関して、もっと深く分析して、行動を変えるべきです。
しかし、以前の記事でも書いたとおり、リベラルの人たちは負けた時の言い訳がとても得意なので、行動の改善は望み薄かなあと。悲しいですが。

*1:朝日新聞デジタル:参院選投票率52.61% 戦後3番目の低さ - 2013参院選

*2:今回から選挙権年齢が引き下げられましたが、投票率が急上昇(あるいは急下降)する、得票率が急変するという可能性は低いと考えて、仮定を置いています