一兆ドルコーチ

 

シリコンバレーで多くの巨大IT企業の社員(特に上級管理職)向けにコーチングをしていた、ビル・キャンベルについての本。彼のコーチングを受けた人たちがコーチングのやり方やコーチングを受けて考えたことなんかを話している。

ビル・キャンベルのコーチングは大部分が「チームとしてうまく機能するためには、何をすればよいのか?」に向けられている。議論が起こっていなければ起こす、リーダーたちにチームメンバーについて親身になって接するように仕向ける、などなど。一方、「どうやってプロジェクトを進めるべきか」など詳細については、各社員に任せていたようだ。コーチングの中身として、1on1ミーティングのやり方・会議の進め方など細かい点について具体的に話し合っていた、という逸話は興味深い。1on1ミーティングをやりましょう・会議をやりましょう、ではチームはうまく機能せずきちんと準備をする必要があるということを示している。当たり前な話だが、テック企業の上級管理職ですらこういうことが不十分にしかできないとなると、普通の会社の普通の管理職はもっとちゃんと準備しないとな、という話だ。

 

こういった本が売れると「指示するマネジメントは古い!これからは任せるマネジメントだ!」みたいな風潮が増えがちだが、組織によって適切なマネジメント方法は違うので、「うまい指示の仕方」「適切な教え方」など習得するのを疎かにしないほうがいい、と思う。例えば、社員の能力がそこまで高くない会社だと、本で挙げられている「ビル・キャンベルのリーダーシップ」の方法が常に有効とは限らない。指示したり教えたりするほうが有効な場合もある。リーダーシップとは状況に応じて適切なスタイルが変わるので、支援型のスタイルの一例として、頭の隅に留めておくことが望ましいと思う。

ビル・キャンベルはもともとアメフトのコーチで、そこからアメリカの大企業(コダックなど)に転職したあと、シリコンバレーコーチングをするようになった、という経歴である。どの組織でも人の能力は高くやるべきことははっきりしているので、リーダーシップ理論的には適切なリーダーシップスタイルは「支援」ということになる。文中でコダック在籍中にチームのマネジメント方法について批判を受け、マイクロマネジメントから支援型のリーダーシップに変更した、という話が出てくる。おそらく本には出てこないが、指導や指示するようなスタイルのリーダーシップも発揮できた、ということだろう。複数の引き出しを持っているからこそ、状況に適切なリーダーシップを発揮できたのだと推測できる。