感想:ミゲル・ストリート

 

ミゲル・ストリート (岩波文庫)

ミゲル・ストリート (岩波文庫)

 

1950年代、トリニダード・トバゴのミゲル・ストリートを舞台とした短編集。

出てくる男性は大抵働いてないし女子供はすぐに殴るし、で碌な人ではない(今の基準に照らせば)。ただ、貧困の中にも、自分たちを突き放したような乾いたユーモアがある。そのユーモアは英国から米国に植民地の管轄が移るなど、自分たちではどうしょうもない流れに色んなことがコントロールされてしまう悲哀が通底してるのかな、と感じた。

短編の一つに駐留するアメリカ軍の軍人と親しくなることでどんどんアメリカかぶれになる男の話がある。軍人と「どちらがより下品な言葉で話せるか競うように話した」という場面が特に印象的で、妙に甘酸っぱい読後感があった。

 

解説によると著者のナイポールは、晩年には「トリニダード・トバゴは西洋に比べて遅れている」というタイプの考え方を持つようになり、同じカリブ海出身の後輩作家たち(彼らもナイポールの作品を読んでいた)から批判されることになるらしい。この作品に感じられる住民達から一歩引くような冷めた書き方を、さらに突き放すように発展させると、そういう思想に辿り着くのかもしれない。一方で、この短編集には「一見して無能なものと共に生きる」というテーマの作品も多い。そういった部分がカリブ海の後輩作家に響いていたのかもしれない。