英語で調べて考察してみる「欧米では~~をやってる」論


日本人は自分たちのルーツを知る必要がある | 中原圭介の未来予想図 | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

ブックマークでも非難轟々の記事ですが、このブログでは少し別の論点から考えてみたいと思います。それは「英語で調べた?」ということです。

なぜかわからないですが、未だに「欧米では~~である」という一文によって自分の論の根拠とするような論説があります。「欧米で行っているから必ずしも善ではないのでは?」「欧米で良い政策(や行動様式)をそのまま日本に当てはめて効果があるのか?」といった疑問が湧き上がるものも多いですが、「そもそも欧米の実態からして違うんじゃない?」という論説も見られます。今回もその例です。欧米では~~と言われたら英語でネット検索をしてみて、本当に事実かどうか調べたほうがいいと思います。

冒頭の論説のロジックから考えてみると、この文章の構成は

  1.   欧米では民族のルーツに関わるような宗教教育が行われている
  2. 欧米でやっているのだから日本でもやるべきだ

というものです。この論理展開もどうかと思いますが、論理の前提として「欧米の学校では、子どもたちに旧約・新約の両聖書やギリシャ神話を必ず教えています」(原文ママ)という事実がなければいけないのです。で、実際どうなのかは少し調べればわかります。

 

まずはWikipediaから

Religious education in primary and secondary education - Wikipedia, the free encyclopedia

 

初等教育及び中等教育における宗教教育」という項目があり、その中でフランスの項目があります。曰く、「フランスでは、宗教教育は宗教的道徳教育(市民、法、社会の教育)に置き換えられている」と書かれています。聖書を教えることを非宗教的な教育というには無理があるので、Wikipediaが嘘をついていない限り、フランスでは聖書を学校で教えてなさそうだな、とわかるわけです。

別のソースを当たってみます。これはEconomist誌の2013年9月の記事で、イングランドとフランスの宗教政策の違いに関して述べています。

http://www.economist.com/blogs/erasmus/2013/09/religion-and-education-england-and-france

ここでは「生徒たちは必ず"あらゆる形の改宗から守られなくてはならない"」「教師と生徒は同様に、政教分離原則の理想を尊重する義務だけでなく、実際に行動する義務がある」という憲章が教育大臣によって発せられた、と書いてあります。政教分離原則を掲げる国の公的教育機関で聖書が教えられるとは考えづらいですよね。

 

というわけでこの論説が根拠にしていた欧米の学校では、子どもたちに旧約・新約の両聖書やギリシャ神話を必ず教えています」という事実は相当に疑わしいことがわかるわけです。まあ、フランスを欧米に含めなければありなのかもしれませんが。そもそも、ヨーロッパとアメリカの学校の中で旧約聖書新約聖書ギリシャ神話を教えていない学校が一校あっただけで、この論拠は崩れてしまうので、かなり危ういといえるでしょう。

 

今回検証に使った記事は「religion class」「religion education france」といった大学受験レベルの英単語をGoogleに打ち込めばすぐに出てくるような記事です。英語で調べると「欧米では~~」と言われているのが実際どの程度信憑性があるのかがわかります。面倒臭がらずに調べるといいかもしれないですね。

 

というかこの記事を書いた人は「最近、欧米でのイスラム教徒のブルカ問題とかあることを考えると、宗教的なものを公的教育機関で教えるのは難しくないか?」という常識とか、「欧米で聖書が教えられているかちょっと調べてみよう」というファクトベースで考えることとか色々抜けている気がします。ココらへんってコンサルタントの基本な気がするんですが……。