Jリーグの2シーズン制に反対する~反論編~

Jリーグが2シーズン制になることについてようやくJリーグ幹部の生の声が聞けた。

[緊急インタビュー]Jリーグ、2ステージ制導入の真意を問う 中西大介(Jリーグ競技・事業本部長インタビュー) – サッカーキング

とはいえこのインタビューを見ても疑問は多い。なのできちんとこの記事で反論したい。また、反論するだけでは生産性がないので後の記事できちんと自分なりの改革案を提示したい。

前提として現在Jリーグ側が抱いている危機感は共感できる。Jリーグのスタジアムに訪れるサポーターの平均年齢が毎年1歳づつ上昇している、つまりファン層が拡大していないということは今後の発展の上で非常に良くない。きちんと新規開拓をすべきだということは私も感じている。ただ一方でその手段として今回の改革が正しいのかどうかは疑問だ。かつて廃止した2シーズン制という制度を復活させるにはその後押しとなる強い根拠が不可欠である。しかし。それがあるとは思えない。以下に問題と思う部分を示す。

アンケートが参考資料にならない

かつてJリーグは2ステージ制を導入していたが年間総合勝ち点が一位でもチャンピオンシップに出場できなかったり、両ステージ完全制覇でチャンピオンシップが行われないなどの事態が起こり、1ステージに戻された。また、サポーターからも不評だった(ステージ優勝ではあまり達成感がないなど)。今回2ステージを導入するからにはその欠点を克服し、導入するべき理由を明示しなくてはならない。

しかし、この記事において論拠の一部とされているアンケートが実に曖昧だ。「ポストシーズン制に対する評価」と題されたアンケートを行ったと言っているが質問文が載っていないため何をどのように質問したかがわからない。アンケートは質問文や質問の順番によって結果が左右されやすい。そのため何を聞いたのかが明らかでなければ参考にできない。きちんと現在の制度を示して質問したのか、それとも漠然と「2ステージ制をどう思いますか」と質問したのか。それによってこのアンケートの意味は変わってくるだろう。

また「(スタジアムに行くのが)10回以下の方は賛成の方が統計的に多い」とされているが計算してみると賛成票は10回以下の人たち全体(59566人)のうちの約5.4%(3238人)、反対は5.1%(3063人)。殆ど差はないと言え、新規の人を呼び込むために2シーズン制を採用すべきという積極的な理由にはならない。

地上波テレビ放送の露出を増やす手段として適当とは思えない

インタビューにおいてはテレビの露出が少ないことが挙げられ、その改善策として「わかりやすい」優勝決定戦が必要だという論理になっている。確かに代表選手の報道の多さやメディアの取り上げられ方を見ると地上波テレビの重要さは理解できる。

しかし、レギュレーションを変更しなくてもできることはあるのではないか。例えば、Jリーグの生放送は現在スカパーがほとんどを行っている状態だが、ホームタウンを含む県に限り安価で放送権を与える、代表戦の生中継の権利とJリーグの生放送の契約を一括で民放各局と契約する、など。百年構想にのっとれば地上波で全国区で放送することよりもクラブのホームタウンの人たちにクラブが浸透していくほうが優先であると思う。

第一視聴率がどれくらいに達する見込みなのかも公表されていない。現在のJリーグの人気は野球のパ・リーグよりもないだろう(平均入場者数はJリーグ15000程度、パ・リーグは20000以上)。そのパ・リーグクライマックスシリーズですら視聴率がひとケタ台、最高で10%という現状なのだ。Jリーグ人気を考えるとこれを超えるとは思えない。そんな視聴率で多くのスポンサーがついたり放送権料が大量に入ってきたりするのだろうか? ここもJリーグ側の説明が全くない。

テレビ視聴者をスタジアムに運ぶ動線が不明瞭

このインタビューでは「スタジアムに足をファンを一番重要視」「平均入場者数が2万人を超えたら1リーグに戻す」などスタジアムに来てもらうことを最重要していることがわかる。しかし、今回の施策案では「テレビで優勝決定戦を見た人がスタジアムに足を運ぶ」という根拠に乏しい。もしそれが本当であればかつて2シーズン制が行われていた時に入場者数は増え続けていたはずだが、そういった数字は示されていない。

新規参入を促す名目なのにルールが煩雑

今回の決定は新規参入者増加のための施策のはずだ。しかし今回の決定で新規の人には更に敷居が上がったように思う。

今回の案では前期後期の1位と2位、さらに年間最多勝ち点を加えてトーナメントをするという。非常にわかりにくい上に、これらのチームの複数がかぶる(例えば前期1位と後期2位)可能性は大いに考えられる。その時にどのようにトーナメントを組むのか、といったことも全くクリアになっていない。その度にトーナメントを組み直していては毎年トーナメントの組み合わせが変動することになり大変に煩雑だ。ただでさえナビスコカップや天皇杯などもあって初心者には「今これがどういった意味を持つ試合なのか」がわかりづらいのに、それをさらに複雑にして新規参入が増えるとは考えづらい。

さらにインタビューでは「1リーグ制が一番いいと思っている」などの1リーグに戻るような発言もかいま見える。ライト層がルールを覚えて新規参入したと思ったらまたルールを変更する、などということがあればファンは離れるのではないか。2シーズン制にするならば数十年単位でするという覚悟のもとで考えてほしい。ころころレギュレーションを変えれば優勝の重みもなくなってしまうからだ。

「優勝の重み」の矛盾

インタビューではタイトルを取る機会を増やして多くの地域に優勝の喜びをもたらしたい、という旨の発言がある。しかし、今回のレギュレーションでは最終的に優勝がトーナメントで決まるからこそライトな視聴者にも受け入れられる「わかりやすい」構図になるという狙いがあったはずだ。これは矛盾ではないだろうか。一方では優勝したチームの地域が喜ぶような重みのあるタイトルがあって、片方にはライトな視聴者が喜ぶようなトーナメントがある。シーズンごとの優勝を意義あるものにすればトーナメントをやる意味が薄れるし、トーナメントを重視すればシーズンごとのタイトルは軽くなる。この2つを両立するのは困難だ。

レギュレーションを変更する前にやれることはないのか

レギュレーションはリーグの制度の核だ。それを変更するにはやはりやれることはひと通りやりました、という印象がほしい。しかし残念ながらあまり感じられない。

例えば今回ナビスコカップのレギュレーションも変更し若手育成のために様々な新制度を導入することを考案している。しかし、サポーターや監督からも再三言われているように、ベストメンバー規定を変更すれば若手はカップ戦に出場しやすくなる。また、スポンサーの問題でも同じように、外資参入を許可すればアジアや韓国系のスポンサーがつくのではないか(せっかくベトナムの英雄レ・コン・ビンが札幌に入団した今がチャンスだと思う)。またクラブのロゴが入ったグッズの規制、オフィシャルショップの数の規制など様々な規制も撤廃できるのではないか。そういった努力を怠っているにも関わらず、根幹のレギュレーションを変更するというのはあまりに拙速だ。

 

Jリーグは提携を通してアジアへの市場拡大を目指している。にも関わらずワールドスタンダードではない2シーズン制を導入するからにはそれ相応の理由が求められるが、はっきり言って見当たらないのが現状だ。というよりJリーグ側が数字や概要を示さず密室的に決定しているためどういった流れでこの制度を導入したかが全く不明瞭だ。このような不透明な形で制度を変更することは信用低下を生む。信用低下はスタジアムの空席を生むだろう。仮にスーパーステージで優勝決定戦が放映されても、スタジアムが空席だらけだったら、その御蔭で今ひとつ盛り上がりに欠ける映像だったなら、果たして視聴者はまた見たいと思えるだろうか。

今回は反論ばかりを書いたので次回は自分なりの改善案を書きたいと思う。